「酔っていたから」は、
浮気の言い訳になるのか
——飲酒が判断力を奪う仕組みを、
脳科学から解説
#脳科学
#浮気心理
#夫婦関係
——その夜、本当に「何も覚えていない」のでしょうか。
「酔っていて、よく覚えていない」。発覚したとき、最初に返ってくる言葉がこれだったという方は少なくありません。責める気持ちと、信じたい気持ちが同時に動く。本当に酔っていたのなら仕方がないのだろうか、と考えてしまう。
先に結論をお伝えします。お酒は、人を別人に変えるものではありません。変えるのは、その人に見えている世界の範囲です。ここを知っておくと、あの夜に何が起きていたのかが、まったく違って見えてきます。
この記事では、飲酒が判断に及ぼす影響を脳の仕組みから見ていきます。そのうえで、「酔っていた」という説明をどう受け止めればいいのかを整理します。
「覚えていない」と
言われた夜
金曜の夜、いつもより遅い帰宅。翌朝になって問い詰めると、返ってきたのは「飲みすぎて、記憶がない」という言葉でした。
その一言で、話が止まってしまった経験はないでしょうか。覚えていないと言われれば、それ以上聞けません。嘘だと思っても、証明のしようがない。追及の入り口が、最初の一言で閉じてしまう。
そしてもう一つ、この言葉が厄介なのは、責任の所在を曖昧にすることです。酔っていたのなら、本人の意志ではなかったことになる。お酒のせいであって、その人のせいではない——そういう空気が生まれます。
ある女性は、こう話してくださいました。「その言葉を聞いた瞬間、追及する材料がなくなったと感じました。嘘だと思っても、証明できない。それどころか、疑い続ける自分のほうが悪い人みたいになってしまって」。疑いは残ったまま、話し合いだけが終わってしまう。これが、この一言のいちばん厄介なところです。
多くの方が、ここで自分の感情を持て余します。許すべきなのか、責め続けていいのか、分からなくなる。怒っている自分が、狭量なのではないかと思えてくる。
そしてもう一つ、この状況には見過ごせない側面があります。飲み会は、これで終わりではないということです。歓送迎会、忘年会、取引先との会食。次の予定を聞くたびに、あの夜のことが戻ってくる。一度の出来事として片づかず、生活の中に何度も現れます。
けれど、判断の前に知っておいてほしいことがあります。お酒が人に何をするのかは、すでにかなり詳しく研究されています。
お酒は、人を別人に変えるものではありません。
変えるのは、その人に見えている範囲だけです。
お酒は理性を壊すのではなく、
視野を狭める
飲酒と行動の関係を説明する枠組みとして、長く参照されてきた考え方があります。心理学者クロード・スティールらが提唱した「アルコール近視」という理論です。
“飲酒は、思考そのものを消すのではなく、注意を向けられる範囲を狭める。その結果、目の前にある手がかりが強く働き、その場にない情報——将来の結果や、遠くにいる家族のこと——は判断に入りにくくなる。
近視という言葉が使われているのは、そのためです。遠くが見えなくなり、近くだけが鮮明になる。飲酒時の判断は、この状態で行われます。
たとえば、目の前に好意を示してくれる相手がいる。この情報は、すぐそこにあります。一方、家で待っている家族、明日の朝の気まずさ、この先の生活。これらはすべて「いま目の前にないもの」です。素面であれば同じ重さで天秤に乗るはずのものが、片方だけ軽くなる。
ここで重要なのは、この理論が示しているのが「判断がなくなる」ことではなく「判断材料が減る」ことだという点です。本人は、その場で確かに選んでいます。ただ、材料が偏った状態で選んでいる。
この理論が興味深いのは、飲酒が必ずしも人を大胆にするとは限らない、と説明できる点です。目の前にあるのが誘いなら、その方向に傾く。けれど目の前にあるのが不安や気まずさなら、そちらが強く効いて、かえって落ち込む人もいます。酒が引き出すものは、その場に何があるかで決まるのです。
だからこそ、どこで飲むか、誰と飲むかが決定的になります。同じ量を飲んでも、家族といる席と、二人きりの席では、視野の中に入ってくるものがまるで違います。
飲酒が身体と脳に与える影響については、厚生労働省のアルコール関連資料にも情報がまとまっています。
「明日どうなるか」が、
想像できなくなる
もう少し具体的に、脳で何が起きているのかを見てみます。
先の見通しを立てたり、衝動を抑えたりする働きは、主に前頭前皮質という領域が担っています。ここはアルコールの影響を受けやすい部分として知られています。一方、快や欲求に関わる仕組みは、比較的あとまで働き続けます。
つまり飲酒時には、アクセルはそのままで、ブレーキだけが効きにくくなっている状態が生まれます。やりたい気持ちは減らないのに、止める力だけが落ちる。
この非対称は、量が増えるほど大きくなります。少し飲んだ段階では、まだ引き返す判断ができる。ところが一定を超えると、判断する側の力だけが先に落ちていきます。「もう一杯」を止められなくなる時点で、その後の判断もすでに危うい——飲む量そのものが、あとの選択を左右しているのです。
これは飲み会での発言や振る舞いを思い返せば、実感できるはずです。普段は言わないことを言う。声が大きくなる。距離が近くなる。これらはすべて、抑制が弱まった結果です。
ただし、ここを誤解しないでいただきたいのです。抑制が弱まるということは、もともとその人の中にあったものが出やすくなるということでもあります。何もない場所からは、何も出てきません。
もう一つ、時間の感覚にも影響が出ます。飲酒時には、いま起きていることへの注意が強まり、そのぶん先のことが遠のきます。明日の朝の自分が、他人のように感じられる。この状態では、後悔という感情が判断材料に入ってきません。だから、素面なら絶対にしない選択が成立してしまう。
「酔うと人が変わる」と言われることがありますが、正確ではありません。変わるのではなく、普段は表に出していない部分が見えるようになるのです。
酒席が、なぜ
危ない場所になるのか
飲酒の影響だけでは、まだ説明が足りません。実際に問題が起きるのは、酒席という場の条件が重なったときです。
① 距離が縮まる
席が近い。声が届きにくいから顔を寄せる。普段なら取らない距離が、自然に生まれます。
② 本音の場という了解がある
「飲みの席だから」という前提が、発言のハードルを下げます。普段は言えない相談も、そこでは言える。
③ 家庭を知る人がいない
周囲にあなたを知る人がいなければ、家庭にいる自分は一時的に遠のきます。
④ 時間が遅い
終電を逃す、二次会に流れる。時間が延びるほど、引き返す判断は難しくなります。
この中で、特に見落とされやすいのが④です。飲み会そのものより、そのあとの時間に問題が起きています。一次会の終わりには、たいてい人が減ります。残るのは、もう少し話したい人だけ。「もう一軒」と言い出す時点で、選ばれた組み合わせになっているのです。
この四つが揃うと、飲酒で狭くなった視野の中に、目の前の相手だけが残ります。しかも、その相手は職場の人であることが多い。毎日顔を合わせている相手との酒席は、それだけで条件が整っていると言えます。
加えて、酒席には「その場の空気」という力も働きます。周囲に同じような振る舞いをする人がいれば、心理的なハードルは下がります。誰かが冗談めかして席を移す、二人で先に帰る。それが咎められない場所では、規範そのものが緩みます。人の判断は、周囲がどう振る舞っているかに強く影響されます。
なぜ職場の相手に心が動きやすいのかについては、なぜ、職場の人を好きになってしまうのかでくわしく書きました。
そして、環境が人の判断をどれだけ左右するかという点は、「うちのパートナーに限って」が危ないにまとめてあります。誠実さは、性格だけで決まるものではありません。
「覚えていない」は、
どこまで本当か
ここが、多くの方がいちばん知りたい部分だと思います。
大量の飲酒によって記憶が抜け落ちる現象は、実際に起こり得ます。医学的にも知られている状態で、本人に嘘をつく意図がなくても、その時間帯の記憶が形成されていないことがあります。
もう一つ知っておいていただきたいのは、記憶が飛ぶ状態と、酔って判断が鈍る状態は別物だという点です。前者はかなりの量を飲んだときに起こるもので、頻繁に起きることではありません。ところが「覚えていない」という説明は、判断が鈍っていただけの場合にも使われます。この二つは、外からは区別がつきません。
ただし、押さえておきたい点があります。記憶が飛ぶほどの飲酒では、身体のほうも相当に影響を受けているのが普通です。歩けない、話が成立しない、翌日は動けない。そこまでの状態でありながら、移動して、部屋を取り、翌朝きちんと帰宅している——この筋書きには無理があります。
もう一つ。人の記憶は、都合の悪い部分だけを選んで消えるようにはできていません。「その部分だけ覚えていない」という説明が繰り返されるなら、それは記憶の問題ではない可能性があります。
見るべきなのは、記憶の有無そのものではありません。その前後の説明が、時系列としてつながっているかどうかです。何時にどこを出て、誰と、どうやって移動したのか。記憶が飛んでいる人は、飛んでいる部分を「分からない」と言います。ところが説明を作っている人は、その部分にも何かを埋めようとします。
ここで注意していただきたいのは、この話を本人にぶつけないことです。矛盾を指摘すれば、次からは説明が整えられます。気づいたことを口に出した瞬間、その手がかりは失われます。
だから「酔っていた」は
免罪符にならない
ここまでを踏まえて、最初の問いに戻ります。「酔っていたから」は、言い訳になるのでしょうか。
なりません。理由は三つあります。
第一に、飲むという選択は素面で行われていることです。どこまで飲むか、誰と、何時までいるか。これらはすべて、判断力がある段階で決められています。酔ったあとの行動が予測できないなら、なおさら手前で止める責任があります。
第二に、視野が狭くなっても、選択そのものは本人が行っている点です。アルコール近視の理論が示しているのは、判断の消失ではなく偏りでした。目の前のものを選んだのは、その人自身です。
第三に、法的な扱いです。飲酒していたことをもって、不貞行為の責任が消えるわけではありません。慰謝料などの判断において、酔っていたという事情が免責の理由になるとは考えにくいのが実情です。個別の判断は弁護士にご確認ください。相談窓口としては法テラスが案内を行っています。
さらに言えば、飲酒を理由にする説明は、繰り返すほど説得力を失います。一度目は事故として受け止められても、二度目からは「同じ状況を避けなかった」という事実のほうが問われます。再発を防ぐ機会があったのに、そうしなかった——そう見なされる段階に入るからです。
そして、いま酒席で線を越えそうになっている方へ。たった一度の過ちで、すべてを失うことがあります。そして傷つくのは、あなたではなく家族です。越えてしまう前に、一度だけ立ち止まってください。自分にとって本当に大切なものは何なのか。
一度きりの人と、
繰り返す人の違い
実際に「酒の席で一度だけ」で終わる人もいます。一方で、同じ説明を何度も繰り返す人もいます。この差はどこから生まれるのでしょうか。
分かれ目は、そのあとに何をしたかにあります。本当に一度きりで終わった人は、たいてい環境のほうを変えています。その相手と二人にならない。深夜まで残らない。飲む機会そのものを減らす。意志ではなく、仕組みで防いでいる。
逆に、「気をつける」「もうしない」と言うだけで環境が何も変わらない場合、同じ条件がまた揃います。条件が同じなら、結果も同じになりやすい。
環境を変えるというのは、意志が弱いことを認める作業でもあります。だから、これができる人は少ない。「自分は大丈夫」と言う人ほど、同じ条件の中に戻っていきます。本当に反省した人は、自分を信用しません。
そして、繰り返されるうちに行為の意味は書き換えられていきます。最初は強い罪悪感があったものが、正当化を経て日常の一部になる。その段階の進み方は、「一度だけ」が「習慣」に変わる、6段階の脳のメカニズムに書きました。
もう一つ、判断の目安になるのが「誰と行くのか」を話すようになったかどうかです。以前は「飲み会」の一言で済ませていた人が、参加者や場所を自分から伝えるようになったなら、それは態度の変化です。聞かれる前に話すかどうか——ここに、本気度が出ます。
見るべきは、謝罪の言葉ではなく行動です。飲み会の頻度、帰宅時間、誰と行くのか。言葉が変わっても生活が変わらないなら、何も変わっていません。
責任は、
酔いの外にある
「酔っていた」と言われて、責めきれない気持ちになった方へ。あなたが感じたためらいは、優しさから来ています。それ自体は、悪いものではありません。
ただ、覚えておいてください。お酒は、その夜の判断を狭めただけです。飲む前の選択も、そのあとどう振る舞うかも、すべて素面の本人が決めています。責任は、酔いの外側にあります。
この構造には、もう一つ厄介な面があります。飲み会は、これからも定期的にやってくるということです。歓送迎会、忘年会、取引先との会食。疑いを抱えたまま、その予定を聞くたびに胃が痛くなる。一度の出来事として終わらず、生活の中に繰り返し戻ってきます。
そしてもう一つ、覚えておいてほしいことがあります。もし関係の中に「言えない不満」が溜まっていたとしても、それは浮気を選んでよい理由にはなりません。関係の課題と、その人の選択は別のものです。この二つを一緒にしてしまうと、あなたが自分を責め続けることになります。すれ違いが積み重なる仕組みは、「察してほしい妻」と「言われなきゃわからない夫」にまとめました。
そして、あなたが本当に苦しいのは、責めきれないことよりも何が起きたのか分からないまま日々が過ぎていくことではないでしょうか。「覚えていない」という説明のもとでは、疑いを確かめる手立てがありません。宙吊りのまま、飲み会のたびに緊張する生活が続く。
その状態が長引くと、心身に影響が出ます。眠れない夜が続いているなら、その仕組みを「眠れない夜が、もう何ヶ月も続いている」にまとめています。実際の件数の傾向は、裁判所の司法統計からも読み取れます。
説明を信じられるかどうかで悩み続けるより、確かめられる材料を持つほうが、心はずっと軽くなります。判断するのは、そのあとで構いません。
兎に角寄り添う探偵社では、「飲み会のたびに不安になる」「覚えていないと言われて、それ以上聞けない」——そんな段階のご相談も数多くお受けしています。確信がなくても構いません。答えを急がなくても大丈夫です。24時間365日、相談無料・秘密厳守。どうか一人で抱え込まず、お気軽にお話をお聞かせください。

